KDDIに聞く、VRイベントの成功の秘訣「バーチャル空間だからこそ必要なこと」

メタジョブ図鑑編集部
December 20, 2021
目次
  • リアルとバーチャルの融合で進化する渋谷ハロウィン
  • なぜVR空間にスタッフが必要なのか?
  • 基本は人と人のコミュニケーション
2020年、コロナ禍における新しいハロウィンの楽しみ方を提示して話題となった「バーチャル渋谷」のハロウィーンフェス。2年目の今年は、楽しみながら社会貢献できる「FUN FOR GOOD」をテーマにバージョンアップして開催され、昨年を超える55万人が参加するなど大きな盛り上がりを見せました。

実はその盛り上がりの裏側に、バーチャル空間で働く公式スタッフの存在がありました。参加したユーザーに操作方法やVR空間の魅力を伝えるだけでなく、VRならではのコミュニケーションを楽しんでもらうことを目的とした公式のアバタースタッフが、バーチャル空間にもたらした効果や今後の可能性について、イベント主催者であるKDDI株式会社(以下、KDDI)にお話をお聞きました。そこには「バーチャルに温もりが生まれる」という予想外の出来事もあったのだそうです!

バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェスとは

2021年10月16日~31日、渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」にて開催されたハロウィーンフェス。「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス2021~FUN FOR GOOD~」と銘打ったイベントは、KDDIや渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会などからなる「渋谷5Gエンターテインメントプロジェクト」によるもの。バーチャル空間で開催されたイベントは連日、音楽ライブやトークライブで盛り上がりました。

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リアルとバーチャルの融合で進化する渋谷ハロウィン



l 今回のイベントのプラットフォームとなった「バーチャル渋谷」は都市連動型メタバースとも呼ばれ注目されていますが、そもそもどのような経緯で作られたのでしょうか?

KDDI:2019年から渋谷の都市体験を拡張しようという流れで、ARを使ったパブリックアートを展示したり、AIが作った楽曲を音のARで流したりと、街中でさまざまな取り組みを行ってきました。最初はKDDI、渋谷未来デザイン、渋谷区観光協会の3社による「渋谷エンタメテック推進プロジェクト」という取り組みだったのですが、徐々に入りたいと言ってくださる企業が出てきまして、オープンにする形で「渋谷5Gエンターテインメントプロジェクト」が発足しました。


l 最初はARでの企画だったんですね?

KDDI:ちょうどNetflixの「攻殻機動隊 SAC_2045」とタイアップして、渋谷の街をジャックする広域プロモーションを予定していたのですが、これからやっていこうというタイミングで新型コロナウイルス感染症の流行が始まってしまったんです。リアルでの実現ができなくなり、家庭で楽しめるコンテンツに変換せざるを得なくなってしまいました。外出自粛で渋谷にも人がいなくなり、渋谷という街が文化やコンテンツの発信地としての役割を果たせなくなってしまったんですね。それならば、オンラインで渋谷を訪れることができるようにしよう、ということで「バーチャル渋谷」を作りました。


l 2回目の開催となった今回は、昨年よりも多い55万人が参加したそうですが、昨年と比べて変わったことはありますか?

KDDI:主目的は昨年と同じで新型コロナウイルス感染拡大の防止のため、ホームハロウィーンを楽しんでもらうというものですが、今年はただ楽しむだけなく「FUN FOR GOOD」(楽しむことで社会貢献できる)をコンセプトに掲げました。ひとつ例を挙げると、ハロウィーンフェスで得られた収益を渋谷区に寄付させていただくことで、バーチャル空間でのイベントが渋谷区の街づくりに役立つという流れを作りました。

l 技術面での変化はありますか?

KDDI:今年はコロナの兼ね合いもリアルとの融合を積極的に推し進めました。少し前に我々はリアルを拡張するために都市と連動したメタバースを作っていくという「バーチャルシティ構想」を公開しました。その流れでもあるのですが、自分の写真からアバターを生成できる「AVATARIUM」と連携し、渋谷の街に「AVATARIUM」の撮影ブースを設置。予約をすれば誰でも「AVATARIUM」を利用でき、自分のオリジナルアバターを作れるようにしました。

※AVATARIUMの設置場所については、時期によって異なりますので、公式サイトをご覧ください。

https://avatarium.jp


l 今年のハロウィーンフェスに、多彩なアバター姿の方いらっしゃったのには、そんな理由があったんですね。

KDDI:ほかにもJOYSOUNDさんと連携させていただき、カラオケボックスと「バーチャル渋谷」内のライブハウスをリアルタイムで連動させ、カラオケボックスで歌うアーティストの歌声と動きが、バーチャル空間のアバターに反映されるというイベントも開催しました。リアルタイムで、参加者からのリクエストで次に歌う曲を決めるなど、参加者とのコミュニケーションがとりやすいメタバースのメリットを活かしたイベントになったと思います。


l コミュニケーションの面では、ほかにも工夫などあったんですか??

KDDI:今年はバーチャル空間に公式スタッフを配置しました。もちろん公式スタッフもバーチャル空間で接客するアバタースタッフです。このスタッフィングを「メタジョブ!」に依頼しました。

なぜVR空間にスタッフが必要なのか?

l 確かにメタバースの入口付近やイベント会場では、STAFFユニフォームを着た公式スタッフが目立っていました。

KDDI:今回のハロウィーンフェスのような開かれたイベントの場合、初めてバーチャル空間にアクセスした方や、clusterのアプリを使ったことがない方も多く参加してくださいます。以前から、そういう初心者への丁寧な案内が必要だとは思っていました。
またバーチャル空間でのリアルなコミュニケーションが、ユーザー満足度のアップに繋がるという感覚はあったので、バーチャル空間でのコミュニケーションを増やして、もっと皆さんに盛り上がっていただきたいと考え「メタジョブ!」にスタッフを派遣してもらうことにしました。


l 公式スタッフの必要性については、すでに実感していたわけですね。

KDDI:はい、そのとおりです。実は昨年「バーチャル渋谷」でライブイベントを開催した際に、ユーザーがほかのユーザーに対して自発的に道案内をするという現象が生まれました。案内が足りなかったと反省しつつ、思いもかけないコミュニケーションが生まれていることに驚かされたのですが、それもスタッフ導入のきっかけのひとつです。

l 公式スタッフの配置によって、期待したような効果はありましたか?

KDDI:予想以上の効果があったと思います。今までも入口付近に看板を立てて初心者向けの案内を出したりはしていたのですが、それとはレベル違いにスムーズな案内ができていました。バーチャル空間でもリアルでも、知らない人から声をかけられるとちょっと敬遠してしまいますよね。公式スタッフだとわかれば警戒心をもたれないのは大きいと思います。バーチャル空間で迷っている方や、操作方法がわかっていない方を見かけることは多いのですが、そこで公式スタッフが円滑に案内をしてくれるというのは、運営側としては非常に助かりました。

l バーチャル空間のコミュニケーション活性化という面ではどうでしょう?

KDDI:公式スタッフの役割のひとつに、ユーザーの写真を撮るという仕事がありました。今回のハロウィーンフェスは、自前のアバターで入ってくれたお客さんがとても多かったのですが、写真を撮ることでユーザーとのコミュニケーションが生まれ、バーチャル空間の活性化にひと役買っていたと思います。

なかにはSNSを中心に人気を集めた名物スタッフも生まれ、そのスタッフを目当てに「バーチャル渋谷」を訪れるユーザーが現れるなんていうことも。バーチャル空間でもパーソナリティがフィーチャーされ、人が集まってくるようなことが起きるというのは新しい発見でした。


l ユーザーからスタッフへという方向でもコミュニケーションが生まれたんですね。

KDDI:バーチャル空間では、一度親しくなるとリアルよりもぐっと話しやすくなる傾向がありますからね。お客さんから公式スタッフには、お褒めの言葉だけでなく様々な貴重な意見も寄せられ、それらのコメントはスタッフから我々にフィードバックされます。そういう生の声を集めるのにも一役買っていただきました。


基本は人と人とのコミュニケーション

l 今回のハロウィーンフェスくらいの規模のイベントであれば、スタッフがいたほうがメタバース内のコミュニケーションはスムーズに行われると考えてよさそうですか?

KDDI:そのあたりはリアルのイベントと一緒だと思うのですが、スタッフが気を配ってくれることで安全で楽しいイベントが実現するというのはありますよね。特に今回のハロウィーンフェスのように幅広くさまざまな人が集まるイベントでは、スタッフが果たす役割がとても大きいと思います。
「メタジョブ!」の担当者と話しているときに「バーチャル空間であっても温かさは必要」という話をされたのですが、まさにその通りで、スタッフの声掛けがあるかないかで参加者の印象は変わりますし、メタバースでの滞在時間も違ってくると思っています。

l 他にスタッフ派遣に期待することはありますか?

KDDI:サービスを拡張していくと、空間内のルールというか秩序を守る必要も出てくると思いますので、そこに今回のイベントのような公式スタッフがわかりやすい形で介在してくれると、誰もが安心して利用できるようになるのではないかと思っています。バーチャル空間でも、やはり基本となるのは人と人のコミュニケーションです。バーチャル空間だからこそ、人を感じさせる温かさが必要だと実感しています。

l 最後になりますが「バーチャル渋谷」では今後、どのような展開を考えていますか?

KDDI:いろいろと構想はありますが、確実にいえるのは「バーチャル渋谷」は都市体験を拡張する、というところからスタートしているので、今後も渋谷という街とつながりながらリアルとバーチャルをつなげるような体験を増やしていくということです。

これまでもさまざまな方の協力があって何とかやってこられたと実感しているので、今後も皆さんと一緒にこの世界を盛り上げていきたいですね。ですから、なるべくオープンにサービス開発やコンテンツ開発をやっていきたいというのはあります。あとはUGCですね。ユーザーが実際にいろいろなコンテンツを開発できる環境を提供したいと考えています。