monoAIに聞く、プラットフォーマーから見たVRイベントでのスタッフ活用メリット

メタジョブ図鑑編集部
December 22, 2021
目次
  • 「XR CLOUD」が手掛けた事例紹介
  • 昨今のバーチャルイベントの現状と課題は?
  • メタバースイベントでの公式スタッフの役割は?
  • メタバースの展望
最大1000人が同時にアクセスでき、コミュニケーションもとれるバーチャル空間プラットフォーム「XR CLOUD」。大規模VR空間共有技術をベースに「XR CLOUD」を開発したmonoAI TECHNOLOGY(以下、monoAI)は、メタバースのプラットフォーマーとして時代を牽引する存在です。facebook(meta)の本格参入などで注目が集まるメタバースですが、まだ黎明期であり各社が試行錯誤をしながら進めている状態。そこで多くのバーチャルイベントを手掛けるmonoAIの小林靖司さんに、メタバースの現状と課題、また展望について語ってもらいました。


小林靖司さん
monoAI TECHNOLOGY株式会社、XR事業推進部

「XR   CLOUD」イベントチーム所属。中京テレビ主催の『ご当地VTuber「日本烈島」バーチャルファンミーティング』をはじめ、営業としてさまざまなメタバースイベントを担当する。

XR CLOUDが手掛けた事例紹介
第53回国際化学オリンピック 日本大会

2021年7月25日から8月2日に開催。世界各国の高校生が参加し化学の知識を競う大会で、今年はオンラインでの開催になり世界85カ国から312人の高校生が参加した。monoAIは開会式や閉会式、表彰式、交流会などのバーチャル空間を英語環境にて作る。スタッフを含め500人以上が同時にアクセスしたイベント。

デジタル甲子園

2021年9月7日から9月10日に開催。バーチャル空間に甲子園球場を再現し、出展企業のブースにアクセスするオンライン展示会。各ブースではボイスチャット機能を使って商談なども実施。春に開催された1回目は展示会のみで参加者は約2000人だったが、2回目ではセミナーも開催することで約4万人が参加した。


ご当地VTuber「日本烈島」バーチャルファンミーティング

2021年6月に開催。ファン100人による全員参加型のゲームやVTuberとのトークなどを実施。初めて「メタジョブ!」のスタッフを派遣し、参加者への案内や企画進行の補助を行った。

昨今のバーチャルイベントの現状と課題は?

l バーチャルイベントを開催する際に、課題として挙がっていることはありますか?

小林さん(以下、小林):第一のハードルはアクセスする側の通信環境や、デバイスのスペックの問題です。特に我々の「XR CLOUD」は最大100人の音声が同時に聞こえる設定になっているので、通信速度が遅いと音声が遅れてしまうとか、動きがスムーズでなくなるといった問題が生じます。ストレスなくバーチャル空間を楽しむことが理想と考えると、通信インフラやハード面の整備は必要だと思っています。

l アクセスする側の操作面はどうですか?

小林:デジタルデバイスに慣れている人は、なんとなく感覚で操作を理解してくれるのですが、慣れない人は入口からつまずいてしまうということもあります。特にビジネス展示会や商談会では40代後半以降の方々の参加も多く、そもそもパソコンやスマートフォンでバーチャルイベントに参加することに抵抗のある方もいらっしゃいますね。


l バーチャルイベントへの参加に抵抗ある方への対策はされていますか?

小林:初めてバーチャル空間に入ると、誰もがどう動けばよいか分からず不安を感じてしまうものです。バーチャル空間内に操作方法を掲示するなどの対策はとっているのですが、多くの情報が詰まったバーチャル空間で、テキストの操作方法を丁寧に見てくれる人は少ないんですよ(笑)。そういった問題の解決策のひとつとして「メタジョブ!」の公式スタッフに入っていただきました。リアルでのコミュニケーションのように誘導や説明をしてもらうことによって、バーチャル空間内の進行がかなりスムーズになりました。このコミュニケーションがあるかないかで、イベントの体験価値は大きく変わってくると思います。

メタバースイベントでの公式スタッフの役割は?

l 公式スタッフ派遣でユーザーの動きがスムーズになるということですが、どういうところで感じられましたか?

小林:例えば『ご当地VTuber「日本烈島」バーチャルファンミーティング』では、参加者のほとんどが20~30代ではあるのですが、それでもバーチャル空間に入ると孤独感があるんです。そこで「不明点はありませんか?」「操作方法をご案内します」など、スタッフからひと声かけていただくとイベント空間の雰囲気が和らぐんですよ。「音声で話してもいいんだ」「テキストで話せるんだ」という空気になると、次は参加者同士がつながって、コミュニティが醸成されていくんです。


l 操作方法がわからない、何したらいいかわからない時にひと声あるとホッとしますよね。

小林:その最初のきっかけを公式スタッフが作ってくれることで、単に「バーチャル空間に入ってみました」という体験から「バーチャル空間でコミュニケーションを楽しんできました」に変わり、イベント自体の体験価値がぐっと上がります。

l 案内や進行など、システム側で対応することはできないのでしょうか?

小林:システム改修にはそれなりのコストがかかりますし、作っても活用されないケースがしばしばあり、人を雇った方がコストメリットがあるのが現状です。加えて、状況に合わせて臨機応変に案内ができるというのも参加者の満足度を高める要因ですね。これは今のところ人間にしかできない対応です。

参加者がバーチャル空間を楽しめたということは、主催者や出展者の趣旨どおりにイベントができたということになります。ですから公式スタッフの案内というのは、双方にとって非常に大きな効果があるといえます。


l 「メタジョブ!」のような外部のスタッフに期待する理由を教えてください。

小林:バーチャルイベントにスタッフをおく場合、プラットフォーマーかイベント主催者が自前で用意することが多く、弊社でも自社スタッフがバーチャル空間に入ってユーザーを案内していました。ただ我々は接客のプロではないですし、そもそも別の仕事をもったうえでの対応になります。なかなか人数が揃わないこともあるし、本業への支障がでることもありました。ですから接客のノウハウをもち、システムにも精通した人に依頼できるというのは大きなメリットだと考えて「メタジョブ!」にお願いしています。


l バーチャル空間での接客経験豊富なスタッフへのニーズが高まりそうですね。

小林:スタッフの派遣を行った「日本烈島」バーチャルファンミーティングは、参加者の動きやコミュニケーションの活発度、またイベントの仕上がりをみても、弊社が関わったバーチャルイベントのなかで最も満足度が高いものになったと思います。イベントの時間がおしてしまうなどご迷惑をおかけした部分もあったのですが、そのわりにネガティブな反応は少なかったですね。やはり公式スタッフの案内によって、イベント全体に一体感がでたことがよかったのだろうと感じています。

繰り返しになりますが、接客のレベルを上げることはバーチャル空間の満足度につながり、イベントそのものの価値を上げることになると思っています。

メタバースの展望

l メタバース内での仕事は今後増えていくと思いますか?

小林:はい、増えていくと思います。いろいろな理由から接客業をやりたくてもできない人が、バーチャル空間なら接客の仕事につけるという点にも大きな可能性を感じています。どこにいても働け、働く時間も選べる、というバーチャルならではの働き方は、社会的マイノリティの方々にとって、新たな活躍の場のひとつとなるかもしれません。イベントの主催者としても、バーチャルイベントが社会全体にとって有益だということになれば開催のモチベーションになるでしょうし、それでバーチャル空間の仕事が増えれば、働きたくても働けない人がいるという社会の損失を埋めることになると思っているんです。


l これからのメタバースの展望について、小林さんはどのように考えていらっしゃいますか?

小林:ここ最近、Facebookの社名がMetaに変更されるなど、メタバースにまつわる話題が増え、メタバースという言葉が一般的にも知られるようになってきました。これまではメタバースでイベントを開催し、そこでバーチャル空間での過ごし方をひとつの体験として提案できればよいと思っていました。それが急にスピードアップし、数千人がバーチャル空間で暮らすような世界へと変わっていく、ちょうど過渡期にいると感じています。


そういう新しい世界へと変わる分かれ道にいるわけですが、まずは通信インフラやデバイスの問題をはじめ、参加したいのに参加できない要因をできるだけ早く解消しないといけないと思っています。平行してバーチャル空間でなければできない体験を洗練させていくのが我々の役割です。例えば地球の反対側にいる家族や友人にすぐ会えるのもバーチャル空間ならではです。そんなリアルでは不可能な体験を“リアル”に感じられる場になれば、バーチャル空間に常に大勢の人がアクセスし、ここでひとつのコミュニティが発展していくという世界が実現できると考えています。


そのためにはバーチャル空間にも、リアルと同じように働く人が必要になってきますよね。もちろん食事はしませんから料理を作る人はいらないと思いますが…、それこそ「メタジョブ!」のようなバーチャル空間の案内人がいて、秩序を守る監視役やコミュニケーションを円滑に進める人も必要でしょう。そうやって、これから新しい世界が作られていくんだろうなと感じています。